女の子と 「やばい、まじやばい。どうしよう？　ってかどうすりゃあいいもんなの？　全然まったく分かんないんだけど？」 　そういきなり先輩から相談された。その内容は告白されたっていう若干のろけなのかな～って気を失いそうなものだった。しかしよく聞くとお相手は校内一の美男子――まあそんな奴はいないけれども――とかじゃあなくって体育のクラス合わせが同じ女の子だそうで。 　ふは～、目の前で女の子同士が仲良くする世界が見れるとは思っていなかった。あんなもんは架空の世界だろ。んで俺は気を失いそうになった。 「ど どど、どうしよう？　おれっち自分で言うのもなんだけど器用なもんだからさ、抜き打ちテストとか体育で苦手な種目に選択が割り振られたとか、そういった予 想できる範囲内のことなら結構対処できるんだけど、これは予想外も予想外でさ。実はおれっちがおれっちのことを女って思ってるだけで、真実のところ外見は 男なんじゃあ……って思っちゃうくらいに予想外。いやまあ実際そこまではパニクってないけれどもさ、まあそのくらい誇張表現を使っても十二分に伝わらない んじゃあないかなと思うくらい。いやー、もう予想外過ぎて、思わず何も言わずに逃げてきちゃったけど、おれっちどうすればいいのかな？」 「逃げたのかよ！　存外に先輩はチキンですね。そんなんじゃ心配ですよ！　……あ～、とりあえず俺にちゅーでもします？」 　やられた、おでこに。 　見事に仰け反ったせいで後ろの机に頭を打ち付けて、倒した椅子に腰をしたたかに打ち付けるという、良いアクションで椅子からこけてしまったので先輩の手を借りて起き上がる。落ち着いて元に戻した腰に椅子をかけなおした。一息。 「おちついてください！」 「落ち着きません！」 　ど うやら冗談は今が通じないようだ。こっちまで落ち着けなくなるのでしばらく冗談は封印することにしよう、そうしよう。さっきの突飛な行動のせいでまっすぐ 見つめることはできないけれども、机の反対側、椅子の背もたれを抱え、こっちに向かい合うように反対に座っている先輩は頭を抱えて、あ゛～と唸ってい る。……あれ？　唸っている？ 「あ～　あんまり考えたくはないんですけれども、……悩むってことは先輩、ひょっとしてちょっとはそういう可能性のことも考えているわけですよね」 「あ～　いや。そっか。確かに悩みはしてるんだよな～。どうなんでしょうね？　保留状況でほっぽって逃げてきちゃったけれども、……ひょっとしておれっちっておにゃの子が好きな人なんですかね？」 　自己診断は自分でしてください。いい加減落ち着いてもよさそうなものだが、先輩は何やら真面目に頭を抱えて考え中。お相手は誰だか知らないが、ちょっと想像してみてみる。 　朝は登校坂を仲良く並んで学校へ通う先輩と件の彼女、クラスは違うけれども休み時間なんかには話したりして、昼食の時間はもちろん二人で、帰りも二人で商店街をぶらついて、……ってあれ？　なんかただの仲の良い友達と変わらない気もするが。ん～。 「その、告白されたわけなんでしょうけど、いったいそれってどういうことになるんですかね？　彼氏彼女じゃあなくって彼女彼女？　正直そっちの世界には詳しくないので何とも言えないのですが」 「おれっちだって詳しいわけないじゃーん。……ん、でも、そうだよね。付き合っちゃったらおれっちどうなるんだろ？」 「考えたんですけど、仲のいい女友達が増えるくらいでなんか変化とかあるんすかね？」 　 先輩も付き合った時のことを考えているのか、俺との会話が止まった。思うのだが具体的な関係を知らずに周りから見れば、それはただの仲のいい友達にしか見 えないのではないだろうか。みんながみんな女の子同士の愛情、しかもそれが友情や親愛を越えたものだなんて、常識ではありえないってフィルターを無意識に 掛けてしまうんじゃあないかな。 「え、ちょ、だって女の子同士だよ！？　女の子同士っていったいなにすんの！？」 　男の子に聞かないでください。というかどこまで飛躍して考えているのかは知らないが、随分とまあおかしくなっていらっしゃる。 「まあ何にせよ誠実な答えが一番なんじゃないですかね？　あんまり素直に祝福はしてあげられそうにないですけれども」 「……お前さんが一番不誠実な気がする」 　苦笑でかわす。先輩は溜息一つ、机の上に顎を乗せ思案顔。視線はあちこちをさまよって、俺が見つめていたから目が合った。先輩は何か言おうとしたのか口を半開きにして、何も言わずに教室を出て行った。