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 なんだってこんなことになってしまったのだろうか。
 今、俺は先輩の家でコタツに入って蜜柑を貪りながら、年末のあの歌番組を見ている。周りにはお銚子なんかも転がっているし、蕎麦のどんぶりもまだコタツの上だ。
 未成年の飲酒について咎める人はいないので無視するが、年越しそばって深夜零時ジャストに食べなくてもいいのだろうか? 年越す前に食べたら年越しじゃないんじゃないか? それとも年越しのための蕎麦なのだろうかと、酩酊感を覚える頭でどうでもいいことを考える。
 しかし何がめずらしいのかって言うと、先輩と二人っきりってところだ。
 例年であれば俺ん家とか誰かの家で、みんな集まって大騒ぎとかだったりするのだ。
 去年は俺の家だったので、今年は誰か他の人のお家にお邪魔するかも知れなかったりとかも考えた。準備に片づけしなくてラッキーって思っていたさ。しかしどこでどういったルートをたどったのか、場所はアパートの先輩の家に、人数は二人でいるのだ。
 昨日も一昨日も、皆で騒いだので、いきなり二人だけになると戸惑いよりも寂しさが湧く。それぞれ用事があるとのことだが、襲っても良かったかもしれない。結局、先輩の家に襲撃するだけになってしまった。
 大人数では入りきらない小さなコタツ。二人しか入ってなくても狭いことには変わりなくて、ちょっと足を動かせば先輩の足にあたる。
  微動だにしないでいることはできなくて時々コタツの中で足が当たったりするが、そこは相手が先輩なので、『あ、すみません』とかちょっと謝ったりっていう 展開はなくて、対応は『コタツなんだからそういうもんじゃん』な空気が漂うだけなのだが、それはそれで自然らしさが気になるといますか。マチだったら流血 を想定しなければならない。
 まあ酒のせいかもしれないが、調子はいつもどおりではない。それは確かだ。調子がおかしいことに気づいていて、なおかつ酒を呑んでいるのならば言わねばならないだろう。そう、酔ってなんかいないやい! と。
「……面白くない! 何だってこんなにテレビは面白くないんだ!」
「それは形がほとんど長方形だからじゃないですか? 絶対星型とかハート型にしたらおもしろいですって! ワイドなんか目じゃないですよ!」
「ん! たしかにワイドもおもしろさが欠けるのが問題なんだぜ! もっと社会に反抗的なデザインにしてもいいと思うんだ! テレビだけに!!」
 先輩は何が面白いのか自分で言ったことに対して大笑い。テレビだけにってどういうつながりがあるのだろうか?
 足をばたつかせながら笑うものだからコタツが跳ねて、お銚子が踊る。ミカンは逃げるように転がっていった。どんぶりは持ち前の重量で位置をキープしていたがおつゆはそうはいかなかったようだ。
 笑いすぎたからか、それともぶつけた足が痛いからか、先輩の目には涙が浮かんでいて、俺はそれが面白くて笑った。笑った拍子に足をコタツで打ったがかなり痛かった。
「にしても先輩。もうすぐしたら新年ですよ新年。今からじゃあ二年参りは無理ですけれども、初詣どうします? 神社も寺も新年祝ってるんで、仲間外れにしちゃあかわいそうな教会にでも行きますか」
「馬鹿だな~、教会だっておおっぴらに爆竹鳴らしたり、花火打ち上げたりしないだけで、新年は祝ってるんだってば。そんなもんで新年のヤツの裏をかけないって、やるならお墓参りとかどうよ!」
「それはなかなかにいいかもしれませんね。三社参りならぬ三家参りするにしても楽ですしね」
「さらに裏をかいて、いっそのこと零時になってもどこにも行かないってのはどうよ!」
「それって結構普通ですってば」
 そう言葉を返すと、何も面白い返しはしていないのに先輩はまた大笑い。おもわず何か洒落にでもなっていたのだろうかと考える。箸が転がっても面白い年頃ではあるが、酒が入っているとそれは悪化するようだ。
 とりあえず転がった箸やらミカンやらを集めて、散らかった部屋を簡単にまとめる。とりあえずなので洗いものはシンクにぶち込むだけ。水まわりは寒さが引き立つので、長時間いるのはよろしくない。
 部屋の中では気にしない格好でも外では冷気が襲いかかってくるので装備を整える。
 もこもこと着ぶくれた先輩をばしばしと叩きながら冷たい靴を履く。玄関をくぐり、身を震わせて思ったのは、結局どこに行くかを考えてなかったこと。