集計結果



 イライラってものは原因不明のものにも感じるものだが、原因がわかったってそれを取り除けない限りはイライラし続けるのである。イライラが限界に達する前に仕事が終わったので、大きな声で叫んでみることにした。
「うおらしゃー、終わったぜー! お疲れ自分! お疲れお前! あれ? フクたん今職員室だよね? さっさと出して帰ろうぜ。んでもって寄り道しまくってやる!」
「さあな、逐一居場所を把握してるわけじゃあないんで、今どこにいるかなんてわからないな。普通なら職員室だろうが、フクたんのことだから果たしてどうだかな。提出するまでが仕事だ、自分で探せ」
  幽霊にフクたんの居場所を聞いても帰ってくる言葉は芳しくないもの。フクたんの体に発信機なんか取り付けていないので、俺にも居場所はわからない。手伝っ てくれたんだから提出まで付き合ってくれてもいいと思う。まあ、今まで付き合ってくれただけでも良しとするべきかもしれないけれど、人間は誰だって楽な方 へ流れるのなら、まさに俺も当てはまるのだ。
 幽霊は鞄の中身を確認する。入れ忘れているものはなくて、新たに机から引き出されるものもない。俺はまだ何も用意していないので鞄は軽いまま。きっと用意しても軽いまま。
「なんでい、もしかしてもう帰んの? 集計で時間食ったとはいえ、まだまだ時間は早いと思うけど」
「いや、とりあえず部活に顔は出しておく」
 そう言われてしまえば引き止めることは難しくて、簡単な感謝の言葉を送って幽霊を送り出す。
 遊ぶのならともかく、部活動に勤しむには時間は遅めだけれども、幽霊は急ぐことはない。手伝えって言ったら手伝ってくれたのだが、部活があるんならそっち優先してくれても良かったのにな。まあおかげでずいぶん早く仕事が終わった。
 一枚だけならばそれほど重いとは思えない紙も、たくさん集まれば重いわけで、職員室まで持っていくのはやめにして集計結果の紙だけを掴んだ。肉体労働はフクたんにさせるとしよう。そうしよう。
 放課後になったからって、特殊な時空に飛んでいるわけではないので、人っ子一人いないなんてことはない。あちらこちらにちらほらと。さすがに昼休みほどではないけれども、職員室に行くまでには何人かとすれ違う。そこに知り合いの姿はないのだけれど。
  紙切れ一枚掴んで職員室に来たけれども、フクたんの姿は見えない。可愛らしい小物がいっぱいで、それだけならば非常に印象はいいのだが、やたらと物が多く 散らかったままの机にフクたんは収まっていなかった。お茶うけを摘まんで帰ろうかとも思ったけれども、さらに仕事が増えそうなのでおとなしくしてみる。
 積まれた書類やらの上に置いて帰っても良かったけれども、果たしてフクたんが自分の机を把握しているかどうか。自信がなかったので探すことにする。フクたんに紛失されても、きっと俺のせいにされるので大変だ。やはりプリントの束を担いでこなかったのは正解だったようだ。
 どこに行ったか聞いてみるも誰も言付けされてはいなくて、先生たちからも幽霊とほぼ同等の返答が返ってくるだけ。いったいどこに行ったのか当てもなく探さねばならなくなってしまう。
 職員室を後にして、教室に戻る途中、行きとは違って知り合いの姿を見つけた。なるほど、これが行きは良い良い、帰りは怖いということかと思う人物だった。つまりは先輩だ。
「あ、先輩。フクたん見ませんでした? 提出物持ってきたのに職員室にいなかったんですよね~」
「ん~、見てないけど? あれじゃないかな? フクたんも気になって今頃教室に行っててさ、それですれ違いとか」
「まあ、ありっちゃありですね。他に仕事してそうにないですし。そして今度は教室に行くけれども、今度はフクたんが職員室に戻っていて、そしてまたすれ違いになったりするんですよね」
「ふはははは、それで済めばいいがな! 延々と繰り返し続けて、きっと二人はもう二度と出会うことはできなくて、一生をこの学校で彷徨いながら果てるのだ!」
「なんでそんなペシミみたいな悲観的なこと言ってんですか。近寄らないでくださいよ、こっちまで移るじゃないですか」
「わお、まるでペシミの性格がウイルス扱いだ~」
「あれ、知りませんでしたか? 人の性格、感情って感染するんですよ?」
「知ってるよ」
 そう言って先輩はこちらを指差した。後ろを振り向けばペシミとフクたんがいた。