飛び降り



 別に会いたくて屋上を目指したわけではないのだが、やっぱりラモーテは屋上にいて、そこにはリモコンもいた。あまり人から話しかけられることの無いリモコンだったが、ラモーテに熱心に話しかけられている。
 ラモーテのことなんだから、リモコンに一緒に死なないかと誘いをかけているに違いない。リモコンは死んだ目をしている。
「ちーっす、ラモーテはまた勧誘ですか?」
「ええ、ええ。そうなのよ、ええ。やっぱり一人ぼっちは淋しいじゃない。それはわたくしに限ったことじゃなくて、誰もがそうだと思うの。だからこうして一人じゃなくなるように声を掛けて、一緒に死んでくれないか頼んでるのよ」
「ま、そしたらこれから先ずーっと話ができなくなって余計にさびしいかもしれませんけれどね」
 ラモーテの絶望的で淋しそうな顔が面白くて俺は声をあげて笑ってしまった。作り笑いなんかじゃなくて、心底笑ってるんだからもっと喜んでくれてもいいと思う。
「んで、今回のプランはどんなんですか? 聞いたって絶対一緒に死んでなんかあげませんけど、聞かせてくださいよ」
「え、ええ。今回はね、お天気もいいことだし、この屋上から飛び降り自殺なんていいと思うの。さりとてぱっとしたとこなんかないこの学び舎だけれども、美女二人が抱き合って飛び降りたりなんかすると、話題になること間違いなしだと思うのよ」
 自分の考えたプランのあまりの素晴らしさにラモーテは顔を紅潮させて、死のうとする人間なのに生き生きとしていた。素晴らしいプランの一部を担うべきリモコンは死亡プランを聞いても相変わらず死んだ目をしている。この時のリモコンは面白くない。
「でもそれって美女一人でもそこそこの話題性はありますよね。リモコンと一緒って言うのは話題性抜群ですけれど、どちらかって言うと美女が二人でってことよりもリモコンの方がインパクト強いんじゃないですか」
「まあ、そうよね。確かに二人だと余計にインパクトはあるけれども、それは二人という多人数ということであって、わたくし個人によるものではなくても可能なのよね。私が私であるために決意するのなら私一人の方がいいのかしら?」
 わけのわからないことを聞いてくるので無難な答えや、引き止める答えなんか返さずにさあ? と無責任な答えを放った。
 リモコンの反応も芳しくなかったのでラモーテはプランを再考し始めた。理知的な顔はとてもこれから死のうとしているだなんて想像させないものだ。
 結論が出たらしく、よしと小さく声を出すラモーテ。どうやら一人ででもことを成し遂げることにしたようだ。今日は天気がいいからそんな気持ちもわからなくはない。
 小さい足が靴から引き抜かれて、薄い布一枚越しで地面と触れる。慣れない感触らしく、ラモーテは足が地面につくたびに挙動不審。こんなんで飛び降りが果たせるのか、はなはだ疑わしい。
 行儀良く小さい靴がきれいに並べられる。遺書が添えられていないのが美しさを欠くけれども、急ぎでならば仕方無いものか。靴が揃えられていなければ殺人事件の犯人候補にあがりやすくなってしまうので助かる。
「ちょっと、今から柵を乗り越えるのですから見ないで下さる?」
「え、いいじゃないですか。けちけちしないで冥土の土産に人間の恥ぐらい見せてくださいよ」
「何だかその言い方だとダメ人間って聞こえるからよしてほしいわね。それに冥土の土産と言うのなら私が貰うものでしょう」
 秘密なんていっぱいあるけれども打ち明けたりなんかしない。いちいちこんなことがあるたびに秘密を暴露していけばラモーテに頭が上がらなくなってしまう。ん、そうだ。
「じゃあ一つ、冥土の土産をば。だいたい冥土の土産って聞かされると死なないことが多いですよね。どうです、いい土産になりますかね?」
 ラモーテは聞かなかったように耳を塞ぐけれども遅すぎる。まあ土産にさせるつもりもないのでどうしたものか。
 落ち着き取り戻して深呼吸をするラモーテ。耳から離れた手は胸の上。どうせ死ぬから気にしないことにしたのか、こっちのことは気にせずに柵に手をかけた。
「きた」
 ぽつりと口を開いたリモコン。何が来たのか知らないけれども、リモコンの方がこっちへとやってきた。何をするのかと思ったら、揃えられて靴をおもむろに手に取り、
「くんかくんかくんか」
 いちいちご丁寧に自分で擬音を口にしながら靴の匂いを嗅ぎ始めた。
  スカートの中身よりも靴の中身の方が耐えられなかったらしく、ラモーテはリモコンから靴を奪い、抱えて屋上から走り去ってしまった。リモコンは靴が無く なってしまい何か嗅ぐものを探していたので、いえ~、と気の抜ける声でリモコンとハイタッチしたあとに掌でも嗅がせてやることにした。