硝子細工



「……あれさ、キラキラで煌びやかで煌めいて可愛くない? ちょっと欲しいかも、というか欲しいかも、かなり欲しいかも」
  なんて言いながら、それに負けず劣らず上目遣いできらきらと目を輝かせているのは先輩ではなく、制服の下に黒のアンダーシャツを着込んだ短髪 眼鏡の同級生。いつもどおりなら先輩と一緒にぶらぶらしながら帰るんだけど、今回は追加人員を十字架が勤めている。
 ちなみに歩いてい るのは駅前商店街で、本来ならば俺と先輩の登下校路とはまったく関わりない。だからといって人間娯楽がなければ生きていけないものですから寄り道しないこ とはないので、絶対通らないわけでもない。しかし今日のところはお使いを頼まれたので買い物に寄ったわけだ。先輩とお釣りをどうちょろまかそうかと駄弁り ながら向かっていると、下校中の十字架に見つかった。帰り道が同じ方向ということで御同行しているわけだ。
 さて。お使いの内容は文具店によって黒い画用紙を大量に購入というまったく簡単なものであった。しかし任務には幾多の困難が付きまとった。先輩と十字架が途中で猫を追いかけ始めたり、志道寺のナマグサ坊主と話し込んだり、と。
  あんたら寄り道大好きだな! まあ俺も嫌いじゃないんですけどね。そんなこんなで、商店街の入り口が見えるころにはいくつもの明かりが店にも夜空にも灯っ ているころになってしまった。遅くなった一番の原因は、ナマグサ坊主プロデュースのネコにまつわる怪談話が幾つも幾つも出てきたことだろう。一番肝を冷や したのはネコに針を飲まされる話。
 時間を食ってしまったので一直線に文具店を目指したかったとこだが、入ってすぐの場所に店を構える雑貨店に十 字架が捕まってしまった。十字架を捕らえて離さないのは硝子細工の人魚のハープ弾き。ちなみに弾き手が人魚なんじゃなくてハープすらも人魚という変わった デザイン。ハープである人魚が自分自身を奏でるというのは面白いものだと思ったが、使命を放り出すわけにもいかない。しかし寄り道は嫌いじゃないのだ。
「あれ十字架ってそういう趣味だっけ? こっちのほうが好みかと思った」
 そういって俺が指をさしたのは歪にくねった硝子細工。明確な形を持たないが、どうなってんのかわからないくらいに光を煌めかせていて綺麗。それに比べ人魚のハープは落ち着いた光を返している。
「んあ~ 確かにそっちも好みだけど、こっちのさハープの本体がかなりめっちゃものすごく可愛くない?」
 言われてしげしげと見つめると、確かになかなか凝ったデザインだ。つまりそういうことは、ちらと視線を値札に向けると……わお。手がとどかねえ。こりゃあ二、三ヶ月根性入れないとゲットは難しい代物だな。
 ん? ぐいぐいと袖を引っ張られるので振り向くと当然先輩で、これまたどうしたことか上目遣いで目をきらきらと輝かせていた。
「これさすごい良くない? っていうか思わず買ってあげたくなっちゃわない? 一個といわずに三個まとめて買って上げちゃったりしない?」
 そういいながら指すのは、籠にどっさりと入れられた直径一センチくらいのビー玉。表面が光沢を帯びていて鏡のように俺たちを丸く写していた。カラーバリエーションは赤青緑の三色。ディスプレイには黄色があるが売り切れ中のようだ。
「大して高くないんですから自分で買ってくださいよ。それに後輩にたかろうとしないでくださいよ」
「じゃあこのちょっとかなり結構ハイコストで高価で高めのこれは買ってくれるの? あたし同輩だし、条件からは外れてるよね?」
 ……しまった。なんかこの状況って危険じゃね?
「いや、さすがにそんな高価なものをプレゼントするのも男子諸兄に悪いし。誤解されるじゃん」
「んじゃ誤解されたいおれっちに買ってくれてもいいじゃん! あ、安いのが気になるならもっと高いの選んでくるけど?」
 びっくりしそうなものを探してきそうな先輩を行かせないように手を掴む。さらにその手の上に重ねられたのは十字架の手だった。
「誤解なんて解いてしまえばいいし、あたしと先輩にプレゼントすれば全然まったくこれっぽちも問題にならないんじゃない?」
 あれ? なんか俺嵌められてない? ここはきっぱりと、どちらにもプレゼントなんてイベントが発生しない旨を言わなければえらいことになるんじゃないかい、おい。

 雑貨店の出入り口を外に出るとちょっぴり寒い風が吹いた。嬉しそうな二人の顔に対して俺のフトコロは寒くなってしまった。
 本来の目的地である文具店前で十字架とはパ-ティを別れることに。見えなくなったところで財布の中身を思い出すと小さくため息が出た。
 そんな口の中に異物感。不思議に思って吐き出してみる。最初は飴玉かとも思ったが味がないから当然そんなものじゃなくて、この赤い物体はどこかで見たことがある。
「一個あげる。さ、お使い済ませてさっさと帰るか」
 先輩はズンズン店に入ってく。その後姿を見て、ビー玉を口の中に放り込んだ。