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 今日はオンドリと一緒に登校坂の一番上でぼけーっと下校していく生徒たちを眺めている。秋風は落ち葉を舞わせることに飽きたのか、時折強く吹いて女子の注意を引きつける。
 そんな風にもてあそばれる女子のスカートを眺めているのだが、この行為はスカートを眺めているのか、それともスカートの中身を見ようとしているのかという、日本海溝よりも深い意味を持つ。つまり日本海溝ってなんで日本海にあるんじゃなくて太平洋なのかってことだ。
「オンドリ、俺なんかむなしくなってきた」
「そうか、俺はなかなかに楽しいべ」
  そんなものかと思ってオンドリのほうを見てみれば、何だこいつは! 生徒手帳の何に使うのかわからない白いページに、サラサラとスケッチを行っていた。す げー、生徒手帳の利用法を見出した奴ってそうそういないもんだ。もちろん使い道を見いだせなかった俺は持ち歩いてはいない。
「オンドリすげえな~、そこそこにうまいな」
「ん、まあな。そこんとこはわかっちょる」
「そこんとこってどこんとこ?」
「口に出して言うまでもないとこ」
  そう言うとオンドリはスケッチを再開する。小さな紙の中に、これから自分の家へ帰る生徒に、寄り道して遊ぶであろう生徒たちが描かれていく。見ていてなか なかに面白いものだけれども、見ているだけは物足りない。けれども俺は絵を描くなんてスキルもなければ、生徒手帳なんて持ち歩いてはいないので、視線を少 し下の登校坂に向ける。
 そうすると道の真ん中で突っ立っている奴がいた。みんなが坂を下って帰るというのにそいつは突っ立ったまま。下校するやつらの邪魔をしているのだろうかなんて興奮しながら見てみれば知り合いだった。
「おいーす。リモコン何やってんの?」
 通じるとは思っていなかったが、こちらから声をかけると、リモコンは顔を赤くしてなぜかもじもじとしている。別にタイミングよく秋風がいたずらしたわけでもないので一体何なんだろうか。
「もう! またエッチなこと考えてるんだから! いっつもいっつも恥ずかしいこと考えさせないでよね!」
「なんだと! まるで俺がいっつも煩悩が凝った妄想しているみたいじゃないか! 嘘なんかついてないで、ありのままの清く正しい心を伝えないと周りが誤解するだろ!」
「え、いいの? ありのままを伝えても?」
「やっぱり勘弁してください」
 とりあえず繋がっていらっしゃるようなので本気で謝ろうかと思う。意識無意識どこまで繋がっているのかなんて、自分の心のように分からないのだから。分からないことが分かっても、だいたい良いことはない。
「うす、リモコン、か? 以心伝心でコネクト中だべ?」
 いつも通りというものが分からないが、リモコンはある意味いつも通りだったためにオンドリは不審を表す目をした。俺を含めて大多数の人間がリモコンのことは苦手だ。
「でも、毎度毎度不思議に思うけれどもさ、人の心が読めるってのはどんな気分なん?」
「まあ読めるわけじゃないんですけどね。なんていうか、こう、繋がるから分かる感じですよ!」
「ふーん、まあよくわかんないけれども、分かるってのは何かと便利そうだけどな」
「そうか? 俺は分からなくて分からせる方が好きだべ。好き嫌いじゃなくて便利、不便の話なら便利とは思うけど」
「まあ、男の子がスカート穿いてて、男だってわかっていても強風でめくれあがったら見てしまうんだろうな、なんてことが分かっても便利だとは思いませんけどね!」
 読めないって言ったくせに読んでいらっしゃるじゃないですか! それともこれが分かっているということなのだろうか? 今日のテンションが高めのリモコンはどうやら口が滑るようなので要注意。きっとそんなことも伝わっている。
 やたらと赤い顔でくねくねしているので、多くの時間目にするリモコンと違って大変気持ちが悪い。でもこれが俺との繋がりでもたらされた影響だと思えば、可愛がらなければいけないのかもしれない。
「まあ、便利だなって自分ですら思うのは、せいぜいこんな感じですよ」
 そういってオンドリの生徒手帳に手を伸ばし、さらさらと何かを描く。手早く書きあげるとリモコンは帰ってしまった。リモコンへと振った手を下ろして、何を描いたのかオンドリの手元をのぞきこめば、そこにはまるでオンドリのタッチでリモコンが描かれていた。
 描かれていたリモコンは滅茶苦茶嫌そうな顔をしていたが、慰めたりする方法は分からなかった。分かりたくもなかった。