切れない



「ふおッ、せりゃ、せいせいせ~い! ……ああ、もういいや」
「裏方はなに奇声あげて諦めてんだよ。食事中に奇怪な行動に出るなよ」
 弁当箱の中身から隣に視線を移せば、裏方が何かタレっぽいものをかけていた。
「あ~、なに? どうしたん? 変な声出してた割には至って平凡なアクションしてやがって。もうちょっと面白いボケかますとか中庭なことをいいことに穴掘って死んだ振りするとか、奇抜なことをして俺を楽しませてよ」
「まあ別にそれくらいやってもいいけど、あ、やっぱ無し。やる気は無いけど、努力すれば、まあそれなりにできないことはないけどさ。でもそんなお昼時って嫌過ぎない?」
 勿論嫌ですとも。お昼ぐらいはゆっくりと過ごしたいものです。たとえさっきの授業を真面目に聞かず寝ていたとしても。
「んで、何? どうしたん?」
「いやさ、ソースかけようとしたらさ、この何だっけ? あー、うん、マジックカットの部分が中々切れなくてさ」
 そう言って目の前でゆらゆらと揺らされた、醤油かソースか何かわからないタレっぽいものが端っこに残っている袋はマジックカットと書かれた場所とは違う、ギザギザしたところから開いていた。だいぶこねくり回したのかマジックカットと書かれた周辺はゆがんでいる。
「時々あるよね~。ここから切れますって書いてあるのに全然切れなかったり、これみたいに案外変なところからの方が開きやすいやつとか。究極はどうやっても開かないやつ、もう鋏プリーズみたいな。もう全然マジックじゃあないっていう」
「あー、あるな。普通だと開けるときは右、閉めるときは左に回すのに逆回転なラムネのビンとか」
「そうそう。……ってあれは仕様だよ! 懐かしいな~。昔はあそこからビー玉取り出してコレクションにしてたんだよな~。誰が一番多く持ってるか競い合ったりしてさ、しかも何でか普通のビー玉なんかよりアレの方が綺麗に見えたんだよな~」
「完全なビンのやつは地面にぶつけて取り出すんだけど、それでよく店のおばちゃんに怒られたな~」
「ちょっと頑張りすぎでしょ。んでさ、色が薄い奴はちょっとレアでさ~。あとでメーカーが違うことに気づいて、隣町のほうまで薄いメーカーのビン探したりしたな~……って何か話がマジックカットから離れてない?」
 ちっ、今回は閑話休題が早かったな。いつもはこのまま脱線したままひた走ることも珍しくないのだが。
「ほんと、こういった消費者の憤りってどこにぶつければいいんだろうね? あっちこっち切れやすいのは困るけれども、切れにくいのも困るんじゃ~! せめて切れ込みをおくれよ」
 うまく切れないということは裁断を失敗したのだろう。生産者もちょっとしたミスで一々キレて文句を言われても困るだろうな。というかそれこそ鋏を使えば済む話なのだから。
「あ~、あれだ。カットの過去、過去分詞系は?」
「カットカットカット」
「ん だからさマジックカットってのはきっとこの場合過去形で元々つながっちゃあいなくって既に切れているはずなんだよ。切れていたはずのものが何故かつながっ ている。そこがマジックって言い訳はどう? ってなんか言いたいこと伝わってる? あ~、現在時間から考えるとさ……って何か説明真面目にすると逆にアホ くさく感じるな。アホなことを真面目に考える、これぞまさにアホの始まりってか」
「あ~、脱線がひどいけど、要はなに? 切れないもんだって言いたいの?」
「そんなトコ。思いつきを考えなしに口走ってすいませんでした。ついでに言うと俺にキレるなってのもよろしく」
  別に悪くはないのだけれども謝りの言葉を述べると、口に紙パックの牛乳を咥えた宮殿が帰ってきた。購買でなんか追加買ってくるといって出かけて行ったが、 両手に何も持っていないところを見ると、すでにお目当ては売り切れていたようだ。コッペパンは余ってしまうのになぜ入荷し続けるのか、謎に思う。
「パック牛乳ってペロンってめくってストロー差すところがあるじゃあないですか。でも、ついつい口を開けて差し込んでしまうんですよね」
 …… あ~、これは何と言っていいのか分からない。相槌を打とうにも俺はそんなことをしたことはない。うまく開かなくてちょっと困るぐらいならあるが、横にスト ローが付いている飲み物に対し、穴を探さずに口を開けることはないんじゃあないかな。とりあえず裏方の方を見れば目が合った。お互い苦笑いした後に言った 言葉は
「「それはないかな~」」