部活の話



  よく後悔はしていないってあるけど、それって実はする暇がなかっただけかもしれないって思うことができたのは冷静になれて、なおかつ暇ができたから。して はいませんよ? 後悔。面倒くさいな~っては思っているけど。悔いるっていう感情の正確な発露なんて知らないけどなー。
 な んでこうなったのか分からないが、いま俺はマチに愚痴をぶつけられてる。この内容が、下級生で性別も趣味も違う俺でもアドバイスできるようなことならとも かく、何も言えなくてどうしようもなかったりする。愚痴の中身は部活のことで、そんな所属していない他所様の部活のことを俺なんかに話されても、帰宅部二 年目、遊んでばかりの俺には、気が利いてて効果的な励ましやアドバイスは出てこないのです。
 ちなみにここから逃げ出すうまい手も出てこない。
 つ いさっきまで一緒にいたはずの先輩は端っから聞く気がなくて、もう部屋にはいない。どうせ隣の部屋で遊んでいるのだろう。ここには好奇心をくすぐるモノが 多すぎる。きっと今頃先生の手作り鉱石標本でも見ているのだろう。最初は鉄の字が旧字体で読めなかったんだよな。保存状態は悪く、輝かない黄鉄鉱もオツな ものです。
「ちょっと聞いてんの~!」
「答えはノーだ、聞いてない」
 叩かれた。より適切な表現に直すならば殴られたって勢いで。ちょっ、手が出るのはやすぎねえ? 武力行使は最後の手段にして、んでもって、できれば永久に放棄してください。口喧嘩でも勝てるかどうかわからんけどな。
「はいはい、真面目に聞きますよ。で、なんだったっけ? 部員の誰かが宇宙人の解剖に成功したんだっけ? 技名を『ミューティレーション返し』にするかどうかだっけ?」
「あたしとしては~、ちょっと渋く『御開帳in宇宙』がいいと思うけれども、そんな話じゃあなくって~、あたしら今年で卒業だから次の奴らが心配だって話。お前は来年二年生だから、せいぜい中だるみで成績悪くするといいよ~」
 さらっときついこと言いやがって。学校の勉強ができたからってどうなるかというと、できないよりかはできた方がいいってことぐらいわかっているのだ。
 大 丈夫ですよ~、覚えてますよ~、俺にはどうしようもない話ですけどね。あんまり進展のしようのない話をぐだぐだと聞かされているのだから、いい加減厭きて きた。というかマチがそんなことを気にしていただなんて……、この事件を俺は誰かに打ち明けたい。研究の邪魔さえされなければ他の物事には無関心で、研究 対象にだけ情熱を燃やす人だと思っていただけに驚きだ。
「なんたってウチってバカかアホか策略かってくらいに部員が多いからね~。あたしらがいなくなったらどうなっちゃうか心配でさ~、卒業後も研究の名目で備品ちょろまかしてくれそうな奴とか考えないとね~」
 しっ かり打算が働いているようで、たかられる次期最上級生にはすまない話だが、安心した。というか待て待て、その口ぶりからすると大学に進学してからもまだ寄 りつく気なのか。どうせすぐ近くの大学に進学するのだから、何が変わるというわけでもないだろう。とりあえずマチがいなくなれば暴力の頻度は確実に減るだ ろうな~、と思ったら泣き所を蹴られた。耐えろ弁慶。
「だから真面目に聴けって~。お前なんかじゃどうせ役に立たないけれども~、言葉のサンドバックの役くらいはこなして見せろよ~」
 う わ~、端から期待していない上にサンドバックって……。手も足も出ないので口は出していいのかな。せめて愚痴をぶちまけるんなら、ちょっとくらい期待して くれてもいいと思うんだがな。まあ、確かに、これまで話を聞いてみて何も良い意見が出てこないので、まったくもって予想の通りなんですけどな。
「役に立たないってわかってるんなら、役に立ちそうな人に相談してくださいよ。たとえば先輩とか同じ学年なんですから部活に入ってなくても、そういったことにはもうちょっとナイスな意見くれるんじゃあないですか?」
 先輩も俺もお互い帰宅部だが、そこは何と言うか年の効の発揮しどころだと思う。意外と意外な人から意外な意見が飛び出るかもしれない。
「いやいや~、あたしは今愚痴を言っているだけで相談なんてしてないから~。お前ごときがあたしに何かしてやれるだなんて思いあがるなよ~? んじゃ愚痴再開するから~、生返事じゃあない真剣な返事と感想。あとあたしに対する尊敬と愛情を返してね~?」
 ひどいな~、と思いつつも結局付き合ってしまうので溜め息が出る。