寒いから



 寒 さを防ぐのに制服というものは適していないって思ってるのは俺以外にもたくさんいるはずだ。ここいらはそんなにどかどか雪が降る地方じゃないので、男子生 徒はあまりコートを着ることはない。理由? やせ我慢じゃねえの。そうなると制服の中身が大事になるわけだが、制服の内側にそれほど詰め込めるわけもな く、結局はマフラーと手袋がメインになる。ズボンの下に穿くジャージもやせ我慢の発揮しどころだ。
 雪っていうのは寒ければ無条件で降るものじゃ あないのだから、どんなに寒い思いをしても空がずっぎゅ~んッという擬音が似合いそうに晴れてる今日みたいな天気じゃ拝めることもない。快晴で太陽が出て いても、出力不足で寒いことには変わらない。そんなもんだから、どうせ寒いのならいっそのこと雪でも降ればいいのにと恨み言を唱えてしまうのだ。まあ降っ たら降ったで困るんだけどな。雪をそれほど見ない地方だから言える科白だ。
「にしても、先輩のそのコート暖かそうですね~。白って夏見ると涼しく見えるのに、もこもこしてるのを冬に見ると今度はすごい暖かそうに見えるんだから不思議なもんです」
  まあ、あったかそうに見えるのはコートだけが理由じゃないのだが。先輩は帽子、耳当て、マフラー、雪も降ってないのにスパッツと、もちろんスカートの下に はジャージを着用とフル装備だ。うん、恥も外聞も見事に捨てていらっしゃる。今日は体育があり、やせ我慢を発揮している俺はこうして震え続けるってわけ だ。携帯懐炉を仕込み忘れたのは失敗だったな~。
「寒そうにしてたってこのコートはお気になんだから貸してあげないよ~ 学校の通気性抜群ジャージなら貸してあげてもいいけど? でも今日は下にタイツ穿いてないんだよな~」
「無いよりかはマシですが、なにが楽しくて往来のど真ん中で下半身ださにゃあならんのですか。しかしこのままだと寒いのは変わらんですしな~。まあ、うちのジャージって通気性良過ぎて防寒には不向きですよね」
「そうだよね~って、あれ、今結構本気でジャージ借りる気あった? おれっちの心配は無し? 下半身さらすのはYOUだけじゃあないんだぜい?」
 ふむ、よくよく考えればそうか。ふざけて借り受けることが成功したならば、先輩は往来のど真ん中でスカートの下に穿いているジャージを脱いで、人の温もりなジャージを俺が穿くことになってたわけか。
「……まあ、それもアリって事で。むしろ先輩なら大丈夫でしょう。通行人の視覚を奪い去ったりとかしません? それに借りる気なんてありませんでしたけど、どっちにしても先輩のサイズじゃあ穿けませんよ。……む、そうすると俺が脱がせ損ですよね」
「どっちにしても!? どっちにしてもって事はおれっちが脱ごうが脱ぐまいが対して変わらないと! つまり脱がすことも視野に入るということか! ひどッ おれっちの滑らかな肢体に飢えた野獣が襲い掛かる心配なんてしてくれないの!?」
「まあ、そういう科白は、夏場に暑いからってスカートで扇いだり、短く絞ったりする人にはいう権利はないかと思われますが? っていうか今文脈おかしいことに気付きながらもそっちの方向に話持っていこうとしてますよね?」
 夏のことを思い出しても、当然体は温まるわけもなく。むしろ夏場は、体を冷やそう冷やそうとアホなこともやったのを思い出して、余計に寒く思えてきた。この寒い季節に夏と同じように制服着たままプールに飛び込んだら伝説になれるだろうか?
「なんか効率よくあったまる方法ってないもんですかねぇ。こうも寒いと学校行くのも、着いたあとも気が滅入りますよ」
「だよね~。ウチの学校の暖房ときたら今でもストーブなんだもんねえ。火力が足りねえよ~。おれっち膝掛け持ってくるの忘れたから憂鬱だよ。たしかにあったまる方法があったら教えて欲しいもんだね」
 膝掛けってどこまで寒がりですか。おもいっきり背中をはたいたら懐炉が二、三個落ちるのじゃないだろうか。もしくは空間を圧縮して服を何着も着ていたりとか、あとは空間を切断してあったまった空気がどこにも逃げないようにするとか。まあ後半は人間業じゃあないな。
「あ、えちぃことはダメなんだぜい。そんな肌と肌を重ねて温めあおうだなんて、……不潔ッ!」
「じゃあ殴りあいましょうか。拳と拳を重ねましょうよ」
「あッ、だめッ、激しすぎ!」
  はい、往来のど真ん中で変な声を出さないでください。それに対し冗談半分でファイティングポーズをとる俺。先輩は手を腰に当て、もう一方の手を顔の前に 持ってくると、相手に対して甲を見せたその手、指先だけを自分の顔へと動かした。って挑発かよ! くそ、そっちのほうがかっこいいじゃん。
 そんな風に馬鹿なことを言い合いながら遣りながら歩いていく。学校に着いて上履きに履き替えるとひやりとした。まあ、そういうこと。